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企業結合審査におけるデータ結合の 競争制限性に対する評価

  • ニュースレター
  • 2025.10.20

韓国公正取引委員会は、ECモールであるGマーケットとAliExpress(アリエクスプレス)の企業結合審査において、データ結合の競争制限性を重点的に検討し、是正措置を命じました。本件措置は、従来の市場シェア中心の競争制限性判断を超え、プラットフォーム企業におけるデータ結合が市場支配力の強化および競争制限に与える影響を体系的に分析した初の事例です。韓国公正取引委員会は、データが中核的な競争要素として浮上するデジタル経済時代において、データ結合をいかなる基準で規制すべきかについての重要な先例を示しました。

 


1. デジタル市場におけるデータの役割

2. Gマーケット・AliExpress事例におけるデータ結合による競争制限性の検討

3. Gマーケット・AliExpress企業結合に対する是正措置の内容

4. 示唆


 

1. デジタル市場におけるデータの役割

 

デジタル経済において、データは単なる副産物ではなく、核心的な競争要素として定着しています。特にEC市場においては、利用者データが、パーソナライズドなサービス提供、精緻なターゲティング・マーケティング、アルゴリズムの改善等を通じて、プラットフォームの競争力を直接的に左右します。韓国公正取引委員会は本件企業結合審査において、「EC市場においてデータが重要な競争要素として作用する」点を明示的に認めました。

 

 

2. Gマーケット・AliExpress事例におけるデータ結合による競争制限性の検討

 

ア. 関連市場の現状

 

韓国国内の越境EC市場において、AliExpressは取引額ベースで37.1%の市場シェアを有し首位、Gマーケットは3.9%で第4位に位置しています。企業結合後、両社の合算市場シェアは41%に達し、首位事業者としての地位はいっそう強固になるとともに、結合会社の市場シェアは今後さらに上昇する可能性が高いと評価されました。

 

Gマーケットは、韓国国内で20年以上事業を展開しており、その過程で得た 5,000万超の会員情報を基に、個々の消費者の消費嗜好や韓国消費者集団の消費パターン等に関するデータを豊富に保有しています。AliExpressは、世界約200カ国でサービスを提供しており、商品別に各国の購入件数や評価を蓄積・共有して表示するなど、消費者の選好に関する膨大なデータを保有し、高い技術力を背景に当該データを分析しています。したがって、本件企業結合により、両社が保有する利用者情報と分析技術が相互補完的に結合し得る構造です。

 

イ. 市場支配力強化のメカニズム

 

① フィードバックの循環構造とネットワーク効果の相乗作用

 

韓国公正取引委員会は、両社のデータ結合により、越境EC市場で機能するフィードバックの循環構造およびネットワーク効果が一層強化されると分析しました。具体的には、「データの蓄積→アルゴリズムの改善→サービス品質の向上→リピーターの増加」へと続く循環構造と、「プラットフォーム利用者数の増加→販売者の流入→さらなる利用者数の増加」へと続く間接ネットワーク効果が噛み合うことで、市場の集中が加速すると予想しました。

 

② 精緻なパーソナライズド・マーケティング技術の具現

 

結合会社は、精緻なパーソナライズド・マーケティング技術を駆使し、リアルタイムのパーソナライズド広告を適用したり、消費者の嗜好を反映したユーザーインターフェース(UI)を開発する等の方法により、GマーケットおよびAliExpressへの流入を急速に拡大できるでしょう。とりわけ、結合会社の既存ユーザーについては、AIを利用したおすすめ等を通じて購買転換率を最大化でき、AliExpressを利用していない消費者については、Gマーケットのデータを活用した「ドッペルゲンガー方式(ルックアライク・ターゲティング)」広告によりAliExpressへの流入を促進することができます。このように、データ結合によるパーソナライズド・サービスの高度化は、消費者のプラットフォーム間のスイッチングコストを高め、マルチホーミングを弱める効果をもたらします。

 

③ 競合事業者のコスト上昇及び参入障壁の拡大

 

Gマーケット・AliExpress結合会社並みのデータ能力を備えていない競合事業者は、利用者の離脱を招くか、これを防ぐために大規模な投資を行わざるを得ない可能性があり、ひいては市場への参入障壁も高まると見込まれます。

 

④ 消費者ロックイン効果と非価格競争の制限

 

このようなメカニズムによって生じる消費者のロックイン効果は、結合会社がEC市場において、個人情報保護やデータセキュリティといった重要な非価格競争要素の品質を維持する誘因を弱める要因として働きかねません 。これは、最終的に企業結合が消費者厚生にネガティブな影響を及ぼし得ることを意味します。

 

 

3. Gマーケット・AliExpress企業結合に対する是正措置の内容

 

公正取引委員会は、データ結合に起因する競争制限の懸念を解消するため、以下のように包括的な行動的問題解消措置を課しました。

 

ア. データの分離及び独立運営

 

GマーケットとAliExpressは、韓国内の消費者データを技術的に分離しなければならず、韓国内の越境EC市場においては、双方が相手方の消費者データを利用することを全面的に禁止されました。さらに、消費者データを他の形態のデータに反映させることにより、迂回的に是正命令に違反する行為も明示的に禁止されました。一方、韓国内の越境EC以外の市場では、消費者が自己のデータを相手方プラットフォームで利用可能にするか否かについて実質的な選択権を行使できるよう保障することを命じ、市場別に異なる対応が採用されています。なお、GマーケットとAliExpressを、分離されている法人により独立して運営するよう命じました。

 

イ. 個人情報保護・データセキュリティ水準の維持

 

個人情報保護およびデータセキュリティに関する努力の程度を、結合前より弱めることを禁止する条項を盛り込みました。これは、市場支配力の強化に起因する非価格競争の制限に対する懸念を直接的に解消するための措置です。

 

ウ. 履行監督の仕組み

 

是正命令の実効性を担保するため、最大6名からなる履行監督委員会を設置・運営することを義務付けました。是正命令は3年間有効ですが、市場状況の変動等を踏まえて延長できるものとしました。さらに、公正取引委員会は、GマーケットおよびAliExpressに対し、履行監督委員会を組成させ、是正命令の履行状況を点検し、その結果を公正取引委員会に定期的に報告するよう命じました。

 

 

4. 示唆

 

ア. 競争制限性評価のパラダイム変化

 

本件措置は、従来の市場シェアや価格を重視した競争分析の枠を超え、データという無形資産の結合が競争構造に与える影響を体系的に分析した点で、デジタル市場における競争制限性の評価に新たなパラダイムを提示したものです。とりわけ、フィードバックの循環構造、ネットワーク効果、消費者のロックイン効果等、プラットフォーム経済の特殊性を反映した分析の枠組みを適用した点は、今後の類似事例の基準点となることが見込まれます。

 

イ. データ結合の定量的・定性的評価の重要性  
 

本件措置では、Gマーケットの会員データとAliExpressのグローバルな消費者選好データが、互いに異なる特性を有しつつも相互補完的に結合し得る点が主要な争点でした。これは、公正取引委員会が企業結合を審査する際、結合されるデータの単なる規模だけでなく、データの質的特性や結合シナジーについても綿密に評価することを示しています。

 

ウ. イノベーションと競争の均衡点模索

 

データの結合は、競争制限的な効果があるものの、イノベーションの促進や効率性の向上といった効果も同時にもたらすと考えられます。したがって、公正取引委員会は、今後もデータ結合を一律に禁止するのではなく、競争制限の懸念を最小化する一方で、正当な事業目的および効率性向上の効果を維持・確保できるよう、精緻な是正措置の設計に重点を置くものと見込まれます。

 

公正取引委員会は、今後も企業結合審査においてデータ結合の効果を綿密に検討するとともに、データが競争・市場構造・消費者厚生に及ぼす影響について踏み込んだ研究を継続する方針であると明らかにしました。急速に発展するデジタル経済環境の下で競争政策は絶えず進化しており、こうした規制環境の変化について、企業も継続的にモニタリングし、積極的に対応していく必要があります。

 

 

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