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韓国大法院, 不正採用者に対する労働契約の取り消しは適法

  • ニュースレター
  • 2025.11.03

韓国大法院は、S社の不正採用に関わった 8名に対する労働契約の取消しが適法であると判断しました。本判決は、韓国民法第109条に基づく錯誤による意思表示の取消しの要件を採用手続に関連して具体的に適用した事例として、重要な意義を有します。

 


1. 事案

2. 主要争点及び裁判所の判断

3. 示唆


 

1. 事案

 

本件原告は2016年から2017年にかけて公開採用を実施しましたが、国土交通省の特別点検および警察の捜査の結果、23名に関する不正採用の事実が判明しました。

 

具体的な不正行為の態様としては、①労組委員長に口利きの名目で金品を提供したケース (被告B・E・G・I・J)、②代表取締役に働きかけ、人事労務チーム長に自己紹介書を修正させ、その修正後の自己紹介書を提出して評価を受けたケース (被告C)、③不合格点を合格点に変更したケース(被告D)、④合格者名簿から上位合格者を削除して不合格者を合格としたケース(被告F)などがありました。

 

原告は被告らに対し職権免職処分を行いましたが、当該処分が行政訴訟で手続上の違法を理由に取り消されたため、錯誤を理由とする労働契約取消しの通知と併せて、労働者地位不存在確認訴訟を提起しました。

 

 

2. 主要争点及び裁判所の判断

(韓国大法院2025年7月3日言渡し2025ダ210741判決及びソウル高等法院2025年1月24日言渡し2022ナ2052707判決)

 

[主要争点]韓国民法第109条に基づく錯誤による意思表示の取消しが成立するためには、①法律行為の内容に関する錯誤が存在すること、②その錯誤が重要部分に関する錯誤であること、③表意者に重大な過失がないこと、が求められます。本件では各要件の充足が争点となり、韓国大法院は原審の判断をそのまま維持しました。

 

[裁判所の判断]

 

①【法律行為の内容の錯誤】 裁判所は、「原告は公告のとおり公開採用手続を進めたところ、公開採用手続きの結果として労働契約が締結されたことから、採用手続の公正性は本件各労働契約の締結という法律行為の内容を構成する」と判断しました。

 

②【重要部分の錯誤】 裁判所は、「被告らの不正行為と採用との間に因果関係が存在して初めて重要部分の錯誤に当たるとはいえない」との前提に立ち、被告らまたは第三者の請託と採用との間に因果関係がない場合であっても、「原告が採用手続の公正性が害された事実を知っていれば労働契約を締結しなかったはずとみるのが相当であり、一般人の観点からも同様であるから、重要部分の錯誤に該当する」と判断しました。もっとも、被告Hについては、父親が営業本部長に電話で「よろしく頼む」と依頼した行為は内容・程度が重大とはいえず、既に合格者名簿に記載されていたことから、重要部分の錯誤には当たらないとしました。

 

③【重大な過失】 裁判所は、「原告が採用手続の公正性を担保するための制度を設計しており、客観性・公正性を備えて手続を進めるよう監督すべき注意義務を著しく怠った重大な過失があったとはいえないし、また原告がその所属従業員の犯罪行為を事前に防止できなかったという点のみをもって原告に重大な過失があるともいえない」と判断しました。

 

 

3. 示唆

 

本判決は、不正行為により当該応募者らに対する審査が歪められた可能性がない限り重要部分の錯誤に当たらないとした第1審判決とは異なり、不正行為と採用との間に因果関係が存在しない場合であっても重要部分の錯誤に該当し得ると判断し、採用手続上の不正行為を理由とする労働契約の取消しが拡大する可能性を開きました。なお、労働契約を取り消しても、労働契約は将来に向かってのみ効力が消滅するため、すでに支払った賃金の返却を求めることは困難ですが、労働基準法および就業規則上の解雇手続の適用を受けないため、手続を簡素化できる利点があります。

 

本判決及び大法院が2006ダ23817判決にて示しましたように、企業は募集要項に「不正行為を行った応募者の合格は無効とする」との明示的規定を設け、採用スケジュールや選考・手続を透明性をもって公開することで、将来紛争が生じた場合、より有利に対応できると考えられます。

 

和友の労働グループは、労働分野に精通した弁護士、社労士、外国法弁護士などで構成され、企業の人事・労務管理に関する幅広い分野で、助言をはじめ各種紛争に対応する訴訟代理など業務を行っております。とりわけ、急速に変化する労働分野の懸案について、世論形成のリード、先手の争点把握と解決策の検討、蓄積した情報の提供等を通じ、常に依頼者の立場に立って先回りして準備・対応しています。労働関係法全般で培った経験と専門知識に基づき、解雇・懲戒・賃金・差別等の個別的労使関係における紛争のみならず、争議行為等の集団的労使関係から生じる各種紛争についても、効果的な解決を実現しております。

 

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